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クリスマスには首飾りを
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じんぶつ

マーク

クリス


少年


紳士


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先頭に 元もくじへ
1売れない画家
2首かざり
3道で絵を売る
4初老の紳士
5絵をゆずるべきか?
6首かざりを作る
7娘にプレゼント
8首かざりを買って
9なくしたおくりもの
10神さまのおぼしめし
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「クリスマス〜」先頭へ 
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1  れない画家がか


 十二月にはいると街の寒さはいっそうきびしくなってきた。街の駅前広場にはおおきなクリスマスツリーがたてられ、家のとびらには赤や緑のクリスマスリースがかざられた。
 マークはまだ若くて売れない画家である。ひるまは保育所でこどもたちのせわをしていた。家がおなじ方向なので、かえるときはおなじ職場のクリスがときどきいっしょだった。クリスはながい髪でおおきな瞳をした女性である。でも、マークは、クリスがどこのどんな家にかえるのかはらなかった。クリスがなにもはなそうとしないのだ。クリスはふだんから口数がすくなくひかえめであった。
 マークはクリスマスのおくりものについてなやんでいた。気になる女性がいるのだが、勇気がなくてプレゼントをわたせそうにない。そして、クリスマスをいっしょにおいわいしましょうといいたいのだが、それもいえそうになかった。マークは気がよわいのが欠点だった。そのうえもうひとつ問題があった。おくりものにする絵のほうはもう完成していた。しかし、もうひとつおくりものにするつもりの首かざりがまだ作りかけである。首かざりにつけるダイヤを買うお金がないのだ。ダイヤには病気や災害から身を守るふしぎな力があるという。それをぜひ手にいれたいと思った。


2 首かざり

2 首かざり
 二人が古びた三階だてのアパートにつくと、二階からはでなシャツの少年がおりてきた。マークの部屋のうえの階にすんでいる少年である。少年は下をむいたままであいさつもしないでいってしまった。不景気な世の中もそうだが、アパートのなかもさむくひえきっていた。マークの部屋のうすいドアは鍵もなくあいていた。二人は部屋にはいった。すると、絵の具のにおいがしてきた。机や椅子やソファーのまわりに絵をかく道具がちらばっている。マークの絵がかべにいっぱいたてかけられていた。
「仕事のあとに絵を売りにいっているんだ・・・」
「ええ、おてつだいしなくてもいい?」
「いいよ、さむいから…。体にわるいよ」部屋のすみには人物をえがいた絵がひとつたててあった。風景画ばかりがならんでいるなかで、それはひときわうつくしくかがやいていた。
 その絵の人物はクリスに似ていた。マークは机のうえで部屋にある絵を箱につめた。机のすみには作りかけの十字架の首かざりがおいてある。銀の十字架にはこまかい彫刻がほどこされていた。つくるのにすごく時間がかかったにちがいなかった。
「首かざりをつくっているの?」
「うん、おくりものにしようと思って…」


3 道で絵を売る

3 道で絵を売る
「おくりものに…?」 マークはクリスの目をみた。クリスの無邪気な瞳がかがやいていた。
 マークは箱を手にもつとドアに手をかけた。
「うん、それじゃあ、でかけるから…。
明日の日曜
はクリスマスイブだね」
「ええ、朝は教会でお手伝いをするの。それじゃあ、かえるわね」 ふたりはアパートを出てそれぞれ街へあるいていった。
 マークは大通りにいくと、絵をひろげた。大通りはおしゃれなビルにかこまれている。
 ビルにははやりの服やバッグを売る店がならんでいる。その前をきかざったおおぜいの人があるいていた。マークの瞳は画家になる夢でかがやいていたが、身なりはまずしくさむさにふるえていた。よこには街の風景をかいた絵がならんでいる。それは、どれもさむい冬のさびしげな街の風景だった。絵の前をいそぎ足の人たちが通りすぎていく。マークはため息をついた。もうすぐクリスマスだというのに、このごろ絵が一枚も売れないのだ。
 ふと、マークの前に大きな体の男がたった。それはりっぱな身なりをした初老の紳士だった。おろしたての黒のコートを着ている。
「道で絵を売っているのかね?」紳士はふとくおおきな声でそうたずねた。


 初老の紳士

4 初老の紳士
 ええ、よろしければごらんください」 おおきな声におどろいたマークは小さな声でこたえた。
 紳士は大きな目で絵をみわたした。
「どうしてこんなさむいときに絵を売っているのかね?年がこせないほどこまっているのかね」
「いいえ、クリスマスプレゼントを作るためにお金がいるのです」
「作る?絵をかくということかね?」
「いいえ、その…、首かざりを作ろうと思いまして…。ダイヤを買う金がいるのです」
「そうか、それはりっぱなことだ。わしも若いころに首かざりのデザインをしておった」 紳士は、絵の奥にあるおおきな箱に目をとめた。
「どの絵もよくかけている。わしの好きな街の風景ばかりだ。ところで、あの奥においてある箱はなにかね?大事なものほど、ああいったところにかくれているものだが・・・」 マークはぎくりとした。紳士のいうことはあたっていた。あの箱の中には売ることができない大切な絵がある。アパートにおいておくのが心配でもちあるいていたのだ。
「あれはちょっと売ることができません」 マークは申しわけなさそうにいった。 


5 絵をゆずるべきか?

5 絵をゆずるべきか?
「ちょっと見せてくれないかね…」 紳士はそういうと、箱に手をのばした。箱からは、若くてうつくしい女性の絵がでてきた。絵の女性はやさしくほほえんでいた。紳士はその絵を見てひどくおどろいた。
「この絵はうちの娘にそっくりだ。きみは娘を知っているのかね?」
「いいえ、お客さまのようなお金持ちの家のおじょうさまと知りあいのはずがありません」
「それにしてもよく似ている。わしは娘へのクリスマスプレゼントをさがしていた。この絵をゆずってくれぬか。」
「いいえ、それはゆずれません。おくりものにしようと思っていたのです」
「そこをなんとかたのめないかね」
「いいえ…。だめです」 紳士はしばらくなにかかんがえているようすだった。
「じゃあ、このダイヤとこうかんというのはどうだ。わしは宝石商をしておる。絵はまたかけばいいのではないかね…」 紳士はダイヤを手のひらにだした。大きなダイヤがきらきらとかがやいている。マークはまよった。このまま絵を売りつづけても、ダイヤを手にいれることができるかわからなかった。紳士は自分の絵をひどくほしがっているのだ。うれしいことではないか。   


6 首かざりを作る

6 首かざりを作つくる
 「わかりました。わたしの絵を気にいってくださってありがとうございます」
「そうか、ありがとう。この絵はじつにていねいにかいてある。すばらしい絵だ。このダイヤもわたしの大事な宝石だ。大切にしてくれたまえ」
「ありがとうございます。絵はもっていってください」
大切な絵とわかれるのはつらかった。しかし、ほしがっている人のもとへいくのがしあわせかもしれないと思った。紳士は絵をかかえてしあわせそうにかえっていった。
 マークはアパートにかえると、電気をつけて首かざりをつくりはじめた。絵を売ってしまったので、プレゼントがひとつしかなくなってしまった。はやく首かざりを作らないといけない。クリスマスイブはもう明日だ。十字架のかたちはほぼできあがっている。そこにていねいにもようをほっていった。そして、まんなかに大きなダイヤをつけた。十字架の首かざりはダイヤを中心にきらきらとひかりかがやいた。見ていると、うっとりとしてしまううつくしさである。もうすっかり夜になっていた。マークはつかれていつのまにかねてしまった。首かざりはマークの手をはなれ、机のうえでかがやいた。
 紳士は絵を手にいれると家にかえった。そこはちいさな通りにある宝石店であった。看板にはスチュワート宝石店とかかれている。ちいさいが、おしゃれできれいな店であった。なかにはいると若い娘店番をしていた。長い髪と大きな瞳のうつくしい娘である。ガラスケースの中では、宝石が電灯の光にかがやいている。しかし、娘はその宝石にもまけないくらいかがやいていた。 


7 娘にプレゼント

7 娘にプレゼント
「店員がかえってからの店番などせずともよいといっておるのに…。体からだがよわいのだからやすんでおれ。だいたいひるまもどこにアルバイトにいっておるのだ?そんなことをしなくてよいといっておるのに…」
「おとうさま、きょうはおそいおかえりですね」
「とちゅうで絵を買ってきたのだ。絵の顔がおまえにそっくりだったのでな。クリスマスプレゼントだ」 紳士は絵を娘にわたした。娘はプレゼントをもらってよろこんだ。
「まあ、おとうさま、ありがとうございます」 しかし、娘はその絵を見ておどろいた。
「おとうさま、売れない画家から大切な絵をむりやり買ってきたのでしょう。いけませんよ」 紳士はそれをきいておどろいた。娘のいうことはあたっていた。
「いいじゃないか。店にかざっておけばお客さんの目にもとまって売れるようになるかもしれない…」
「こまったおとうさまね。はやくおふろにでもはいって」 紳士は店の奥のほうにはいっていった。娘は絵をいりぐちからよく見えるところにかざった。絵はいきいきとした表情でえがかれていた。愛情をこめてていねいにかいた絵にちがいなかった。宝石のならぶ夜の店のなかでも、その絵はひときわひかりかがやいた。
「ほんとうにすばらしい絵だわ。ほんとうによく似ている」 娘はそういうと、しあわせそうに店番をつづけた。


8 首かざりを買って

8 首かざりを買って
 夜中、とつぜん店にひとりの少年がはいってきた。いそいではしってきたようで、息をはあはあとはずませていた。少年はちいさな首かざりをさしだした。
「これを買ってくれ」 少年はらんぼうにそういった。娘はその首かざりを見ておどろいた。銀の十字架の首かざりのまんなかにはおおきなダイヤがかがやいている。手にとってよく見ると、十字架にはこまかい彫刻がほどこされていた。ながい時間をかけてていねいにつくられたものにちがいない。うしろがわを見ると今年のクリスマスの日付とC・Sというイニシャルがきざまれていた。
「C…S…、きみどうしてこれを?」
「それは…その…、病気のママが売ってきなさいって…」
「まあ、おかあさまが…、それはおきのどくね。きみ、どこかで見た子ね。おかあさまのおなまえは?」
「それは…」
「これはまだできたばかりの首かざりよ。きみはこれをくろうして作った人のことをかんがえたことがある?」
「・・・・・・」
 少年はなにもこたえることができなかった。目には涙がたまっていた。
「いいわ、わたしが買うわ。お金がいるのでしょう」 娘はそういうとお金をわたした。少年はお金をにぎりしめると、おもいっきりはしりだした。


9 なくしたおくりもの

9 なくしたおくりもの
 ほんとうに母が病気ならきのどくな子である。できれば、病気というのは、うそであってほしいと思った。娘は自分がはたらいている保育所のこどもたちのことを思った。まずしいこどもたちがおおいのだ。めぐまれている人もいれば、そうでない人もいる。世の中は不公平だと思った。
 つぎの日は日曜日だった。教会へいったかえりにマークのアパートにいった。マークはひどくしょげておちこんでいた。
「やあ、クリス。メリークリスマス」 マークはそういうと花をさしだした。
「ごめんね。ぼくはまずしいから花しかおくれなくて…。じつはきみの絵えをかいたんだけど、お金持ちの紳士がほしいっていったから売ったんだ。もらったダイヤで十字架首かざりを作ったんだけど、神様がもっていっちゃったのかなあ…。めざめると手のなかになかったんだ…」
「やっぱりわたしのために絵をかいて十字架の首かざりを作ってくれていたの?」
「うん、まあ、そうなんだけど…。どっちもなくなってしまった…」
「わたしのためにありがとう。とてもうれしいわ。じゃあクリスマスのおいわいをしましょう。ワインとケーキをもってきたのよ」
「え?ほんとう、うれしいなあ」 マークはやっとあかるくわらった。
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10 神さまのおぼしめし

10 神さまのおぼしめし
「でも、どういうかぜのふきまわし?」
「あなたの絵は父がわたしに買ってきたのよ。店にかざってあるわ。十字架の首かざりはひろった人が売りにきたのでわたしが買ったわ。でも気をつけなくてはだめよ。ダイヤは人の心をくるわせるから。この首かざりにどんなに手間と時間がかけられているか見ただけでわかったわ。ほら」
クリスが上着)をぬぐと、胸に十字架の首かざりがかがやいた。その真ん中には大きくかがやくダイヤがあった。マークはひどくおどろいた。
「クリスはあんなお金持ちの宝石商のおじょうさまだったの?」
「お金持ちは父で、わたしはちがうわ。それより夢にむかっていっしょうけんめいがんばっているあなたのほうがすてきよ。そんなにしょげないで…。絵と首かざりはけっきょくわたしの手にはいったのよ。神さまのおぼしめしかしら…」
「ダイヤは病気や災害から身をまもるふしぎな力があるといわれているよ。クリスは体がよわそうだから…」
「どうもありがとう。大切にするわ。いつかお礼をしなくちゃね。お誕生日はいつ?」
「まだずっとさきだよ…」 マークはそういってわらった。クリスがワインをさしだした。胸には十字架の首かざりがきらきらとかがやいていた。(了)