リナとりんごの木


リナとりんごの木


1 森のユピ

 ユピは森にすんでいるこどものリスです。ユピは森の中をあるいていました。ともだちのチャピをさそって、森のひろばであそぼうと思ったのです。
「チャピ、いる?あそびにいこう。」 ユピはチャピの家のまえで、さけびました。

2 だれかいる
「ごめんね、ユピちゃん。チャピはおつかいにいって、るすなの。」 チャピのママがでてきて、そういいました。
「なんだ、るすかあ…。それじゃあ、しかたがないね。さようなら、おばさん。」 ユピは、ひとりで出かけることにしました。
 ユピは森のひろばにつきました。森のひろばにはりんごの木があります。木には赤いりんごがなっていました。
「おいしそうなりんごがなっているなあ。」 ユピは、りんごの木のほうに近づきました。ふと、りんごの木の下を見ると、だれかいるのが見えました。まだちいさなリスの女の子のようでした。


3 なにをしているの?

 ユピは声をかけようかどうしようかまよいました。男の子ならかんたんにこえをかけられるのですが、女の子だと気がひけてしまいます。ユピは女の子のようすをじっと見ました。女の子は木の下から、上を見あげています。なにか考えごとをしているようでした。
「なにをしているのだろう?」 ユピはふしぎにおもいました。ユピは勇気をふりしぼって、女の子に声をかけることにしました。
「こんにちは。」 女の子のはユピのほうを見ました。
「こんにちは…。」
「ぼくはユピ。」
「わたしはリナよ。」
「何をしているの?」
「りんごを見ているの。」
「とってきてあげようか?」




4 ふしぎ
「ううん、べつにほしいわけじゃないの。」
「ふうん。まっていて。」 ユピはそういうと、りんごの木をするするとのぼっていきました。そして、りんごを二個とってきました。一個はリナにあげました。
「ありがとう。」 リナはそういいましたが、それほどうれしそうではありませんでした。
「じゃあ、ぼくももう行くね。」
「ええ。」 ユピは、家にかえることにしました。リナはまだりんごの木を見ていました。
 かえり道、ユピはともだちのチャピの家によりました。
「ねえ、チャピ、きょう森の広場の木にふしぎな女の子がいたんだけど。」
「ふしぎな女の子?」
「うん、りんごの木をじっと見ているんだ。」



5 ゆうれい?

「ふうん。」 「それで、りんごがほしいのかなと思って、とってきてあげたんだ。」
「うん。」
「でも、たいしてうれしそうではないんだ。」
「へえ…。」
「なんなんだろうね?」
「さあ?なんなんでしょう。」
「チャピはどう思う?」
「ゆうれいとかじゃないの?」
「それはやなぎの木の下だろう?りんごの木だよ。それに、きれいな顔で、ゆうれいみたいじゃあなかったよ。」
「ふうん、なぞだね。」
「あしたいってみない?」



6 しらべて
「ごめん、あしたもおつかいなんだ。ユピがしらべておいてくれよ。」
「ええ、ひとりでいくの?」
「ゆうれいじゃあないんだろう?」
「うん…。」 ユピはチャピもいっしょにいってくれると思ったのにがっかりしました。つぎの日、ユピは森の広場にむかって出かけました。 ユピはあしばやに歩くと、森のひろばにつきました。森のひろばには、りんごの木があります。木には赤いりんごがなっていました。 りんごの木の下を見ると、また、ちいさな女の子がいました。
「リナさん、こんにちは。」


7 むずかしい

「あ、ユピくん、こんにちは。」
「なにしているの?」
「ええ、りんごを見ているの。」
「ふーん、なにかあるの?」
「…。」 リナはなにもこたえませんでした。
「りんごならとってきてあげようか。」
「…。」 やはり、リナはなにもこたえませんでした。女の子はむずかしいなあとユピは思いました。 ユピはするすると木にのぼっていきました。
「ほら、木の上にのぼると気持ちがいいよ。」 ユピが、そう声をかけると、リナはぽろぽろと涙をこぼしました。ユピはびっくりしました。そして、あわてて木からおりました。


8 どうしたの?
「どうしたの?どうしてないているの?なにかわるいこといったかな?」 リナは首をよこにふりました。ユピはわけがわかりませんでした。木の上は気持ちがいいといっただけです。なにか気にさわったのでしょうか。
「じゃあ、おなかがいたいの?」 リナは首をよこにふりました。ユピは、リナが泣きやむまでまつことにしました。リナの大きな瞳から、大粒の涙がぽろぽろこぼれています。ユピはどう声をかけていいのか、どうしたらいいのかわかりませんでした。 しばらくすると、リナは泣きやみました。
「ごめんなさい。」 リナは言いました。


9 ごめんね
「はずかしいけど、まだ木にうまくのぼれないの。」
「木にうまくのぼれないの?」 ユピはびっくりしました。だれでもするするとのぼれるものだと思っていました。
「それで、木の上をじっと見つめていたり、木の上は気持ちいいっていうと泣いたりしたのか。ごめんね。なんにも知らないで。」 リナは首をよこにふりました。
「いいのよ。木にのぼれないなんておかしいわよね。」
「そんなことないさ。」
「そう?」
「れんしゅうしよう。きっとのぼれるようになるよ。」
「ほんとう?」
「じゃあ、ぼくがのぼってみせるから見ていて。」



10 すこしだけ

「ユピは木にゆっくりのぼってみました。」 リナは目を輝かせて見ていました。
「じゃあ、やってごらん。」
「ええ。」 リナは見よう見まねでのぼってみました。すこしだけのぼれましたが、すぐにおっこちてしまいました。
「うーん、もっと木をよく見て、うまく木をつかまえて。」 ユピがアドバイスを送りました。
「いいかい、もういっかいやってみるからね。」
「ええ。」 ユピは、もういっかいのぼってみました。
「あ、なんかわかった気がする。」 リナはそういうと、のぼってみました。さっきよりはうまくのぼれるようになりました。



11 がんばり
「すこしだけど、のぼれたわ。」 リナはなんどものぼってみました。一番下の枝まで、あとはんぶんくらいです。そのうちに日がくれてきました。
「リナさん、きょうはもう日がくれるから、あしたにしよう。あしたはきっとのぼれるよ。」
「ええ、ありがとう、ユピくん。きょうはもうかえるわ。」 そういうと、リナはかえっていきました。ユピはリナのがんばりにびっくりしました。 かえり道、ユピはチャピの家によりました。
「チャピ、ゆうれいじゃあなかったよ。」
「ふうん、なんだったの?」
「木にうまくのぼれなくてなやんでいたみたい。」
「へえ、そうなの。」


12 おどろかないの?

「おどろかないの?」
「べつに。そういう子がいたっておかしくないさ。」
「そう…。」
「それで、のぼれるようになったの。」
「うん、あともうすこしなんだ。すごくがんばっている。」
「そう、それはすばらしいね。うまくのぼれるようになるといいね。」
「あしたはいっしょにいくよね。」
「ごめん、ユピ、あしたもおつかいなんだ。」
「なんだつまらないの。」
「うまくいったら、またおしえてくれよ。」
「うん、わかった。」 そういうと、ユピは家にかえりました。


13 まちきれなくて
 つぎの日、ユピは森の広場出かけました。広場のりんごの木の下には、もうリナがきていました。
「はやくのぼれるようになるのがまちきれなくて…。」 リナはそういって笑いました。
「はやくのぼれるようになるといいね。」
「ええ。」
「じゃあ、のぼってみるよ。」 ユピは木をのぼってみせました。リナはそのようすをじっと見ていました。
「わかったわ。」 リナは木にのぼってみました。一番下の木の枝まで、ほんのすこしまでのところまで、のぼりました。
「リナさん、すごい。あとほんのすこしじゃないか。」
「そうよね。」 リナは明るく笑いました。



14 こんどこそ

「じゃあ、行くわよ。こんどこそのぼれるわ。」 リナはそういうと、いきおいよくのぼりました。そして、一番下の木の枝までとうとうのぼりきりました。
「やったわ。」 リナは木の枝の上で、うれしそうに笑いました。
「ほんとう、木の上は気持ちいいわね、ユピくん。」
「そうだろう。」 ユピはこたえました。ユピもリナのいる枝までのぼっていきました。
「じゃあ、じぶんでりんごをとってみる?」
「ええ。」 リナは枝の上をあるいていって、りんごに手をのばしました。くるくるっとひねるとりんごが手にはいりました。りんごは赤い色でぴかぴかに光っていました。


15 よかったあ

「やったあ、じぶんでとったりんごよ。やったわ。」 リナはおおよろこびで、あかるく笑いました。
「よかったね。」 ユピもうれしく思いました。ユピとリナは下の草原におりました。さわやかな風がふいてきました。
「わたしね、木にのぼれないなんて、はずかしくてだれにも言えなかったの。」
「そうだったんだ。」
「でも、よかったあ、じぶんでりんごがとれるようになって。」
「そうだね。」 ユピはそうこたえました。しばらくちんもくがつづきました。風がかすかにふいています。
「でも、リナさんは、がんばりやだね。たった二日でできるようになるなんて。えらいね」

16  すやすや
リナの返事はありませんでした。ふしぎに思って横をみると、リナはりんごをだいたまま、すやすやと寝ていました。
「よっぽど、つかれたんだね。」 むりもないとユピは思いました。きのうから、なんかいもなんかいも木にのぼるれんしゅうをしたのです。つかれていないはずはありません。リナは、りんごをだいてまんぞくそうに寝ていました。その顔はとてもしあわせそうでした。ユピは、その顔を見て、よかったなあとうれしくなりました。