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夜のできごと
木村達也
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もくじ 夜のできごと
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1 夜はこわいか? 2 森はあぶないか?
3 ユピはにげるか? 4 チャピはさそいにのるか?
5 とつぜん大きな声? 6 おいかけてくるの?
7 ぶきみな鳴き声は何? 8 ぼくたちたべられるの?
9 ねがいごと? 10 空にまいあがる?
11 湖の島(しま) 12 島で暮らす
13 おなかがすいた 14 夜だから寝る
15 たべられる? 16 いいかんがえはないか
17 サメ作戦? 18 脱出作戦?
19 地味な作戦? 20 脱出できるか?
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登場人物
ユピ
リスの男の子。いたずらずき。しっぽが銀色。
チャピ
リスの男の子。ユピのともだち。
フクロウ
大きい鳥。夜に飛ぶ。
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1 夜はこわいか?
ユピは、こどものリスです。チャピは、ユピのともだちです。ふたりはいつも森であそんでいます。きょうもかくれんぼをしていました。でも、もう日がくれて暗くなってきました。
「ユピ、もう暗くなってきたから帰らないか?」
「え、もうおわり?つまらないなあ。」
「うちは、ママがはやく帰ってこいって、うるさいんだよ。」
「じつは、うちもそうなんだ。夜はこわいからって。」
2 森はあぶないか?
「夜ってこわいのかな?」
「さあ、どうなんだろう。夜に出かけたことないし。」
「ちょっと見てみたいよね。」
「うん、そうだね。」
「でも、きょうは帰る。じゃあね、ユピ。」
そういうと、チャピは帰っていきました。
ユピが家に帰ると、ママがおこってまっていました。
「ユピおそいわよ。」
「うん。」
「あそんでばかりじゃだめよ。」
「うん。」
「夜の森はあぶないわよ。」
「うん。」
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3 ユピはにげるか?
ユピはだんだん頭にきました。ママの話はずっとつづきそうです。あまりにいつもうるさいので、ユピはにげることにしました。
「ちょっとユピ、まだ話のとちゅうよ。どこへいくの?」
「ママがうるさいから、どこかへ出かけてくる。」
「まちなさい、ユピ。」
ママがそういったとき、ユピのすがたはもう見えなくなっていました。
いっぽう、チャピは家でぼんやりしていました。やはり、帰りがおそいので、ママにしかられたばかりです。
「ママはうるさいなあ。それにしてもたいくつだなあ・・・。」
チャピはそうつぶやきました。
4 チャピはさそいにのるか?
すると、とつぜんユピがあらわれました。
「あれ、ユピどうしたの?夜に出あるいてはあぶないよ。」
「ママみたいなことをいうんだね、チャピ。」
「ほんとうだ。いいかたもママとにていた?」
「にていたよ。」
「ところで、こんな夜にどうしたの?」
「じつは、ママとけんかして、家を出てきたんだ。」
「ぼくもママとけんかした。帰りがおそいって。夜はこわいから、はやく帰らないとだめだって。ほんとうにこわいのかな。」
「そうだよね。それで、いまから出かけてみない?家には帰りづらいんだ。」
「ちょっと夜の森を見てみたいな。」
ふたりはこっそりと出かけることにしました。
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5 とつぜん大きな声?
夜空に満月が出ました。森の木は月の光にしっとりとぬれています。
森にはぶきみなしずけさがただよっていました。ユピがおち葉をふむと、ガザゴソと音がします。ユピは、そのたびになにかがあらわれたと思って、びっくりしました。
「ウォー!!」
夜の森にとつぜん大きな声がこだましました。
「なになに?あれなに?チャピ。」
「あれはきっとオオカミだよ。」
「オオカミは夜にあらわれて、リスをたべるんだよ。」
「え?たべられちゃうの?」
「うん。」
「じゃあ、見つからないようにしないと。」
6 おいかけてくるの?
「にげても鼻がいいから、においをかぎつけてやってくるよ。」
「どんなやつ?」
「大きくて・・・。」
「大きくて・・・。」
「毛むくじゃら。」
「うん。」
「大きな口に大きな牙。」
「キバってなに?」
「歯のひとつがとがっていて大きいのさ。」
ユピはオオカミのすがたを頭にえがいてみました。
「おそろしいすがただね。見たの、チャピ。」
「ううん、ママから聞いた。」
ユピはこわくなってきました。
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7 ぶきみな鳴き声は何?
ホー ホー
ホー ホー
また、夜の森にぶきみな声がこだましました。
「あれはなに?チャピ。」
「ああ、あれはきっとフクロウだよ。」
「フクロウって?」
「大きな鳥だよ。」
「ぼくたち、たべられちゃう?」
「うん、きっとたべられちゃうよ。」
「どんな鳥?」
「大きなくちばしと、するどいつめ。」
チャピは、頭の中でフクロウのすがたをえがいてみました。チャピはこわくなってきました。
「見たことあるの?チャピ。」
8 ぼくたちたべられるの?
「ううん、ママに聞いた。」
ユピはこわくなってきました。
とつぜん、ばさばさと羽の音がして、ふたりの前に大きな鳥がとまりました。
「やばい、きっとフクロウだぞ、ユピ。」
チャピはがたがたとふるえていました。
「おじさんは、フクロウなの?」
ユピもふるえながら聞きました。ユピは上を見ました。鳥の頭は、はるか上のほうにあります。おそろしいほど巨大な鳥です。
「そうだよ。ぼうやたち、こんな夜にうろうろしていると、オオカミにたべられてしまうぞ。」
フクロウは、ひくいしずかな声でいいました。
「おじさんは、ぼくたちをたべるの?」
ユピはおそるおそる聞いてみました。
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9 ねがいごと?
「うむ。ぼうやたち、この世に思いのこすことはないかな。」
フクロウはしずかに聞きました。チャピはがたがたふるえていました。
「やっぱりたべられちゃうのか・・・。」
ユピはそうつぶやいて、しばらくかんがえました。
「ぼく、いちど湖の中の島でくらしてみたい。」
ユピはそういいました。
「ほう、なぜ?」
「オオカミがいないって聞いたし、うるさいママがいないし、きらくだから。」
「ははは、いいだろう。たべる前にねがいごとをかなえてやろう。」
フクロウはそういいました。
「ぼうやたち、そこの枯れ木の上にのってごらん。」
10 空にまいあがる?
ふたりはふとくてみじかい枯れ木の上にのりました。
フクロウの大きなつめが、枯れ木をつかまえました。大きな羽がばさばさと音をたてます。ものすごい風がふいてきます。
フクロウは枯れ木をつかんだまま、夜空にまいあがりました。枯れ木の上にはユピとチャピがのっています。フクロウのたくましい羽は、そのぐらいではびくともしないようです。しっかりした飛びかたで、空にあがりました。
夜空には満月が出ています。明るい月は森全体をてらしています。
「わあ、月にてらされて、森がきれいだね。」
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11 湖の島
ユピは、じぶんの運命もわすれて、声を出しました。それほど森は、月の光にうつくしくかがやいていました。
「森って、上から見るとこんなにきれいなのか。」
チャピも森のうつくしさにおどろいたようです。
「あ、湖が見えてきたよ、チャピ。」
「ほんとうだ。」
森の中の湖は、しんぴてきなたたずまいを見せていました。広くてしずかな湖です。まんなかに大きな島があります。
「島が見えてきたよ、ユピ。」
「そうだね。」
フクロウにつれられた、空のたびはもうすぐおわりです。フクロウは島めがけておりていきます。
12 島で暮らす
ばさばさと音がして、フクロウが島におりました。
「どうじゃ、ぼうや、島についたぞ。」
「ありがとう。」
ユピがいいました。
「ねがいをかなえてやったから、もう思いのこすことはないな。」
「ちがうよ。まだこの島でくらしていないよ。」
「そうか。」
「フクロウのおじさん、一週間たったらまたきて。そしたらぼくをたべてもいいよ。」
「そうか。にげたりしないか。」
「まわりは湖でにげられないじゃないか。」
「それもそうじゃな。たのしみはあとにとっておくか。」
そういうと、フクロウはわらって飛びたちました。
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13 おなかがすいた
満月が出ています。島の中の森も木がたくさんしげっていました。島のようすは、森の中のようすとあまりかわりませんでした。
「どんなところかと思っていたけど、森の中とあまりかわらないね。」
ユピがいいました。
「そうみたいだね。たんけんすればなにかおもしろいものがあるかもし
れないよ。」
「うん、でも、きょうはもうつかれたね、チャピ。」
「そうだね。」
「おなかすいたね、チャピ。」
「うん、でもママがいないとごはんがたべられないや。」
「そうだね。」
「はみがきはどこだっけ?」
14 夜だから寝る
「さあ、それもママがいないとわからないなあ。」
「チャピのところは、なんでもママがやっているの?」
「いいや・・・。ユピのところは?」
「ぼくはひとりでもだいじょうぶさ、チャピ。」
「もちろんぼくもだよ、ユピ。」
「しかたない。おなかすいたけど、もう寝ようか、チャピ。」
「うん・・・。」
「まさか、それもママがいないとねむれないとか?」
「いいや、そんなことないさ。」
「そうか。」
二人はなかよくならんで寝ることにしました。空には月と星がかがやいています。
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15 たべられる?
家族のいないところで寝るのは、さびしいものです。それに一週間たったら、フクロウがやってきて、たべられてしまいます。
「ユピ、家に帰りたい?」
「べつにぼくは平気だよ。チャピは?」
「べつにぼくも平気さ。」
「そう・・・。」
ふたりは、そのうちにうとうとと寝てしまいました。ユピは夢の中で、ママとパパといっしょにごはんをたべている夢を見ました。月と星がふたりを空から見守っていました。
島の朝がきました。小鳥が鳴いています。
「ユピ、朝だよ、おきて。」
「ママ、もうすこし。」
16 いいかんがえはないか
「ユピ、ぼくはママじゃないよ。」
「あれ?チャピ、どうしたの?」
「どうしたのって、きのうの夜に家をぬけだして、フクロウにつれられて島にきたんじゃないか。」
「あ、そうか・・・。」
「そうだよ。」
「あ、いけない。一週間後にフクロウにたべられてしまうぞ、チャピ。」
「そうだよ、なんとかしないと。」
「うん。」
「なんかいいかんがえを出してよ、ユピ。」
「うん、そうだ、いいかんがえがある。」
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17 サメ作戦?
「なになに?」
「ぼくはかくれているから、チャピがたべられて。」
「いやだよ、そんなの。べつにいいかんがえじゃないじゃないか。」
「う〜ん、いいかんがえだと思ったんだけど。」
「べつのやつをかんがえてくれ、ユピ。」
チャピはすこしおこったようでした。
「じゃあ、聞いた話なんだけど・・・。」
「うん、なになに?」
「サメをよんで、いちれつにならべるというのはどう?」
「どうやってならべるの?」
「数をかぞえてやるっていうのさ。」
「それって、うそがばれて毛をみんなぬかれちゃう話じゃないの?」
「うん、そうだけど。」
18 脱出作戦?
「いやだよ、毛をぬかれるのは・・・。それに湖にサメはいないよ。」
「そういえばそうかな。」
「うん。」
「う〜ん、こまったね。」
ユピはかんがえこんでしまいました。
「やっぱり枯れ木につかまっておよいでいくっていうのでどう、チャピ。」
「かっこわるくない?」
ユピはそのすがたを思いうかべました。
「ちょっとかっこわるいよね、チャピ。」
「でも、しかたないか。」
「たべられるよりましだよ。」
「そうだね。」
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19 地味な作戦?
二人は、枯れ木をひきずってきました。そして、それを湖にうかべました。湖は広くてとてもきれいでした。湖はしんぴてきなエメラルドの色をしています。見ていると、すいこまれてしまいそうです。
「じゃあ、きしまでこいでいくか。チャピ。」
「うん。」
ふたりは、いっしょうけんめいこぎました。むこうぎしはとてもとおく、なんかいも休みました。
「夜に家なんか出てこなければよかったよね、ユピ。」
「ごめんね。ぼくがさそったから。」
「ううん、ぼくもいくっていったから。」
「もう、こりごりだよね、チャピ。それに、こんど夜に出あるいてフクロウにあったら、すぐにたべられちゃうよ。ぼうやたち、わしをだましただろうとかいって。」
20 脱出できるか?
「そうだよね、夜はこわいって、やっぱりママのいうとおりだったね、
ユピ。」
ふたりはひっしにこいで、やっと、きしにたどりつきました。
ふたりは、森をあるいて家に帰りました。島にいくときはフクロウにのっていったから、はやくいけましたが、じぶんの足であるくと遠くかんじます。
「あ〜あ、すごくおこられるなあ・・・。」
チャピはそういって、じぶんの家に帰りました。
ユピも家に帰りました。ユピの家ではパパとママが一晩中ふたりをさがしていました。
「ごめんね、ママ、パパ。もう二度と夜には出かけません。」
ユピはそういってあやまりました。その日はおこったママの話が一晩中つづきました。
(了)
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