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2 もくじ
12−23B
隆平と桜子
平安の都でおきた事件を 追う隆平と雪乃。
「隆平と桜子」前文へ
先頭に もくじ
隆平と桜子
木村達也
隆平
平安の都におこった事件について調べている。
行平
隆平の兄
雪乃
隆平の家に仕える女性 隆平と事件について調べている。
綾乃
雪乃の姉
惟忠
隆平の屋敷に仕える爺や
薫子
美貌の女性
桜子薫子の妹
鬼丸
野性的な大男 剣術の達人
敏行
桜子に仕えている。隆平の友人
珠子
高貴な女性
基泰
有力一族の次期当主。珠子の兄
隆平と桜子
平安の都を流れる川に架かる朱い橋の下になにが?
「隆平と桜子」12へ
先頭に もくじ
もくじ 隆平と桜子
12 影(かげ)
12B 咆哮(ほうこう)
13 危(あぶ)ない
13B 強(つよ)い
14 屋敷(やしき)
14B 仕業(しわざ)
15 異国(いこく)
15B 舞い(まい)
16 木(き)
16B 駄目(だめ)
17 ついてくる
17B 桜(さくら)
18 祈(いの)り
18B 顔(かお)
19 美(うつく)しさ
19B 夜(よる)
20 物陰(ものかげ)
20B 野性(やせい)
21 本当(ほんとう)
21B 図式(ずしき)
22 人間(にんげん)
22B 姿(すがた)
23 奥(おく)
23B 確か(たしか)
前文 先頭
12影(かげ)
いったい何を祈っているのだろうかと、雪乃は思いました。祈りが終わって、影が立ち上がったとき、隆平が声をかけました。 「こんな夜に何をお祈りしているのですか。あなたは何者ですか。」
影は驚いて隆平と雪乃のほうを 振り向きました。
それは野性的な感じのするたくましい大男でした。隆平も長身ですが、それをさらに 上回る長身です。彫りの深い 顔立ちや金色に 光る髪の毛は、異国の者なのかもしれません。頭の上に角のように 見えるものがあります。
鬼は、隆平の姿を 認めると、そのたくましい腕で腰の刀を 抜きました。そして、足を 踏ん張ると、刀を上段に 構えました。刀の 後ろには、細い月が輝いています。
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12B咆哮(ほうこう)
「隆平様、おやめ下さい。相手は人とは 思えません。」
「雪乃、 危ないから 後ろに 下がっていなさい。」
隆平は、腰の刀を 抜きました。その刀は、普通よりかなり長い刀です。隆平は刀を上段に 構えました。隆平の長い髪が風にゆらゆらと 揺れています。鬼に 比べると、隆平の 体つきはかなり華奢です。しかし、鬼がうかつには 踏み込めない雰囲気が、隆平から漂っていました。隆平の 後ろには、神社の桜並木が 広がっていました。まだ咲きかけの桜の花が、風に 揺れます。
鬼が物凄い咆哮とともに、 切りかかってきました。
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13危(あぶ)ない
「隆平様、危ない。」
隆平は、 後ろに 跳んで鬼の刀を 避けました。鬼の刀の風圧で、隆平の髪の毛がなびきました。隆平はふたたび刀を 構えて、鬼と 向かい合いました。隆平は、まだ刀を一度も 振り 下ろしていません。
鬼は、暗闇の中で、隆平をにらみました。隆平の装束は月に濡れたように輝いていました。隆平が少しずつ鬼との間をつめます。雪乃は、はらはらしながら見ています。
間をつめられた鬼が、たまらずに 切りかかってきました。隆平は、鬼の刀をよけながら、刀を一 振りしました。
鬼の髪の毛が 切られ、はらはらと風に 舞って 飛んで行きました。
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13B強(つよ)い
「強いな。」
地の底から 響くような 低い声で鬼が言いました。
「また、いつか 会うかも 知れぬ。」
鬼はそう言うと、暗闇の中に姿を 消しました。
「隆平様、大丈夫ですか。」
雪乃は、隆平に 駆け寄りました。
「大丈夫ですよ。どこもけがはありません。帰りましょうか。」
隆平はそう言うと、雪乃を連れて千段神社の階段を降り始めました。千段神社の上には、細い月が出ていました。
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14屋敷(やしき)
隆平が屋敷に帰ると、兄の行平が待っていました。
「雪乃、外へ行ってはいけません。もう奥に行きなさい。」
行平は、雪乃を見るとそう言いました。
「はい、行平様、ごめんなさい。」
「兄上、千段神社で鬼に遭遇しました。」
「それで、何かわかりましたか。」
「いいえ、刀を交えましたが、何も聞き出すことはできませんでした。」
「しかし、これで鬼らしき者がいるということはわかりましたね。」
「はい、しかし、鬼なのかどうかはっきりしませんでした。」
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14B仕業(しわざ)
「例の事件は鬼の仕業とうわさされていますが・・・。」
「はい、それについても何も 聞き出せませんでした。」
「そうでしたか。鬼が 果たして殺し屋なのかどうか、調査を続けて下さい。」
「わかりました。」
行平と隆平はそれぞれ屋敷の奥へ行きました。
雪乃は、綾乃の部屋に行きました。
「お姉様、鬼が出ましたのよ。」
「まあ、恐ろしい。それより、雪乃、外へ出てはいけません。わかりましたか。」
「はい、お姉様。それで、すごく 大きくて金色の髪の毛でしたの。」
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15異国(いこく)
「金色の髪の毛ですか。異国の者かもしれませんね。」
「それで、隆平様と刀で戦いを始めました。」
「まあ、それは 危ないですわね。」
「それで、隆平様の刀が鬼の髪の毛を 切ったら、鬼が 逃げて 行ってしまいましたの。」
「隆平様は武芸の達人ですよ。幼いころから、屋敷で訓練を 受けていらっしゃいますわ。」
「それで、あんなにお強いのですね。」
「ええ。」
「隆平様の刀の 舞いは、とても華麗でした。」
「そうですか。」
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15B舞い(まい)
「ええ、 強くて美しいです。」
「雪乃は、隆平様がお気に入りですね。」
「そんなことありませんわ。」
雪乃は、隆平が刀で 戦う様子を見て、 舞いのようで美しいと思いました。
しばらくすると、雪乃はべつのうわさを 思い出しました。
「それよりも、お姉さま、べつのうわさをご存じですか?」
「べつのうわさですか。」
「ええ、都に亡霊が出るといううわさです。」
「いいえ、雪乃、 初めて 知りましたわ。」
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16木(き)
「都に流れる川に架かる朱色の橋・・・。」 「ええ、 知っておりますわ。」
「そこに枝垂れ桜の木がありますでしょう。」
「ええ・・・。」
「夜、あの辺りに亡霊が出るようですよ。」
「まあ、雪乃、本当なのですか?」
「私はまだ見たことありません。」
「見に 行っては駄目ですよ、雪乃。」
「はい、お姉様、わかっております。」
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16B駄目(だめ)
「それから、隆平様に言っては駄目よ。」
「いいえ、隆平様はもうご存じですわ。」
「そうでしたか。」
「雪乃も一緒に連れて 行ってほしいですわ。」 「まあ、雪乃、外へ 行っては駄目よ。」
「はい、お姉様。」
「さあ、もう遅いからお休みなさい。」
「はい、お姉様。」
雪乃は部屋に 戻り休むことにしました。
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17ついてくる
次の日の夜、隆平は亡霊の調査に出かけました。
「雪乃、どうしていつもついてくるのですか。」
「だって、隆平様のことが心配で・・・。」
「夜の都大路で雪乃を連れて歩くのは危険です。」
「まあ、心配して 下さるのですか。」
「雪乃には、屋敷でおとなしくしていてほしいのです。」
「私も隆平様に屋敷にいてほしいですわ。」
雪乃は、いくら言って 聞かせてもついて来ます。隆平はもう 半ばあきらめていました。
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17B桜(さくら)
二人は都を流れる川に架かる朱色の橋にたどり 着きました。隆平は枝垂れ桜が 見えるところに腰掛けて見張ることにしました。枝垂れ桜の 向こうには、桜並木が 続いていました。桜は、美しく咲き始めていました。
都大路には細い月が出ていました。朱に彩られた神社は、月の光に 照らされていました。夜の都大路はひっそりとして 静かです。春の 暖かい風が 吹いています。
しばらくすると、朱色の橋の辺りに影が見えました。
「隆平様、何かいますよ。」
「うむ、そのようですね。様子を見ましょう。」 影は、朱色の橋の辺りにある枝垂れ桜の下にいます。
「隆平様、うわさの亡霊でしょうか。」
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18祈(いの)り
「そうかもしれません。」
「何かお祈りをしているように見えますね。」
「そうですね。」
隆平はと、枝垂れ桜に 向かって歩き始めました。
「あ、隆平様、お待ち下さい。」
雪乃はあとを追いかけました。
「こんな夜にこんなところで、何のお祈りをしていらっしゃるのですか。」
影は驚いて 後ろを 振り向きました。 振り向いた顔は、美しい女性の顔でした。 透き通るような色白の肌、彫りの深い 顔立ちから、気品にあふれた雰囲気が漂っています。
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18B顔(かお)
隆平はその顔を見てひどく驚きました。 亡くなったはずの薫子にそっくりだったからです。
「まさか、あなたは薫子様ですか?」
今度は、影のほうが驚きました。
「姉のことをご存じなのですか?」
「姉?」
「はい、 亡くなった薫子は私の姉です。」
「それで、よく似ていらっしゃるのですね。」
「私は桜子と 申します。あなた様は?」
「私は隆平と 申します。こちらは雪乃です。」
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19美(うつく)しさ
雪乃は、桜子の美しさに驚きました。
「隆平様・・・。薫子様からよくうわさを聞いていました。」
桜子はそう言って、隆平のことを 見つめました。
「それで、何をお祈りなさっていたのですか。」
「はい、朱色の橋の辺りで亡霊が出るといううわさが 立ちまして・・・。」
「ええ、 知っています。」
「姉の薫子様の亡霊ではないかと 思ったわけです。」
「それでお祈りしていたわけですか。」
「はい、不幸な 亡くなり方をしたもので・・・。」
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19B夜(よる)
「夜にお祈りしているのはなぜですか。」 「亡霊は夜に出ると聞きましたので。」
「やはり出るのですか。」 「はい、満月の夜に一度姿を 現しました。」
「満月の夜ですか?」
「はい、今はまだ細い月しか出ていません。」 「満月まではまだ間がありすね。」
「ええ。」
「夜、女の人が一人で歩くのは危険ではありませんか。」
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20物陰(ものかげ)
「はい、危険だと思います。」
「そうですよね。」
「でも、お供の者を連れていますから。」
「お供の者ですか。」
「はい。鬼丸、出てきなさい。」
桜子がそう言うと、物陰から出てきた者がいました。
「この者は私のお供をしている者で名を鬼丸と言います。」
桜子が、そう紹介しました。
「また、お 会いしましたね。」
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20B野性(やせい)
鬼丸はそう言いました。それは野性的な感じのするたくましい大男でした。地の底から 響くような 低い声です。それは、いつぞや千段神社で 会った鬼でした。
隆平はひどく驚きました。そして、刀に手をかけて 身構えました。
「おっと、今夜は 切り合うつもりはありません。」
「そうですか。聞きたいことがあります。」
「何でしょうか。」
「薫子様は、鬼に 殺されたとうわさになっていますが、本当のところはどうなのですか。」
「ごらんのとおり、私は桜子様に仕えております。」
「ええ。」
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21本当(ほんとう)
「薫子様は、桜子様の姉上です。」
「そうですね。」
「その人を私が殺すということはありえません。」
隆平は、桜子に 向かって聞きました。
「この者の言うことは本当ですか。」
「はい、この者は鬼丸と 申します。見た目は恐ろしい感じがするかもしれませんが、私達姉妹が幼いときから、お供をしている者です。」
「そうですか。それでは薫子様を殺すことはありえませんね。」 「はい、それはありえないと思います。」
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21B図式(ずしき)
「それでは、なぜそのようなうわさが 広まったのでしょうか。」
「鬼は恐ろしいものだという先入観によって、うわさが 広がったのではないでしょうか。」
「なるほど、世間の人が納得しやすい図式ではありますね。」
「あるいはわざとそのようなうわさを流したのかもしれません。」
「なぜ、そのようなことを?」
「おそらく、真犯人を 隠すためだと思います。」
桜子は、真犯人に何か心辺りがあるようでした。
隆平は、鬼丸のほうを 向きました。
「鬼丸殿、いつぞや千段神社でお祈りをされていましたね。」
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22人間(にんげん)
「そうでしたか。」
「何をお祈りされていたのですか。他にもだれか 亡くなられたのですか。」
鬼丸は、しばらく 考え事をしているようでした。
「いいえ・・・、 実は早く人間になりたいと 思っていまして・・・。」
「人間に?」
「そう、ごらんのとおりのように、私は鬼の姿をしています。」
「ええ、」
「それで、幼いときより、人間になりたいと祈り続けています。」
「そうでしたか・・・。」
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22B姿(すがた)
「ええ・・・。」
「あのように、夜に祈っているのはなぜですか。」
「私の姿では、昼に歩くと目立ちますので。」
「なるほど、それであのような夜に現れるわけですね。」
「ええ、」
「わかりました。桜子様、鬼丸殿、私共はこれで失礼いたします。 帰り道お気をつけて。」
「ありがとうございます。私共も、これで失礼いたします。」
隆平は雪乃と一緒に屋敷に帰りました。
屋敷に 帰ると兄の行平が待っていました。
「雪乃、また外へ出たのですか。もう 許しませんよ。しばらくはどんな外出も禁止です。」
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23奥(おく)
「・・・・・・。」
「わかりましたか。」
「はい、わかりました。」
雪乃は、仕方がないといった顔で、そう言いました。
「見張りの者をつけますからね。それでは、もう奥に行きなさい。」
「はい、わかりました。」
雪乃は屋敷の奥の部屋に行きました。
「兄上、桜子様というお方に 会いました。薫子様の妹君だとおっしゃっていました。」
「うむ、 確かに薫子様の妹君に、桜子様というお方はいらっしゃいます。」
つぎへ もくじ
23B確か(たしか)
「それで、鬼丸という鬼をお供に連れておりました。」
「何・・・?鬼をお供に・・・。」
「はい。」
「すると、薫子様を殺したのは?」
「はい、どうやらその鬼ではないようです。」
「それは、 確かですか。」
「はい、桜子様と薫子様が幼いときから、お供をしていたようです。」
「そうでしたか。 引き続き調査をして下さい。」
隆平は、行平に報告が 終わると自分の部屋に 引き上げました。 もくじ
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