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3 もくじ
隆平と桜子(たかひらとさくらこ)
隆平と桜子
平安の都でおきた事件を 追う隆平と雪乃。
「隆平と桜子」前文へ
先頭に もくじ
24−35B
隆平と桜子
木村達也
隆平
平安の都におこった事件について調べている。
行平
隆平の兄
雪乃
隆平の家に仕える女性 隆平と事件について調べている。
綾乃
雪乃の姉
惟忠
隆平の屋敷に仕える爺や
薫子
美貌の女性
桜子薫子の妹
鬼丸
野性的な大男 剣術の達人
敏行
桜子に仕えている。隆平の友人
珠子
高貴な女性
基泰
有力一族の次期当主。珠子の兄
隆平と桜子
平安の都を流れる川に架かる朱い橋の下になにが?
先頭に もくじ
もくじ 隆平と桜子
24 亡霊(ぼうれい)
24B 美貌(びぼう)
25 先程(さきほど)
25B 香(かお)り
26 恨み(うらみ)
26B 事情(じじょう)
27 身分(みぶん)
27B1 必死(ひっし)
27B2 何(なに)も
27B3 純真(じゅんしん)
28 禁止(きんし)
28B 失礼(しつれい)
29 客間(きゃくま)
29B 無駄(むだ)
30 似(に)て
30B 冗談(じょうだん)
31 玄関(げんかん)
31B 邪魔(じゃま)
32 問題(もんだい)
32B 予定(よてい)
33 弱い(よわい)
33B 満月(まんげつ)
34 霊(れい)
34B 闇(やみ)
35 一度(いちど)
35B 罠(わな)
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24亡霊(ぼうれい)
雪乃は、姉の綾乃の部屋に行きました。
「朱色の橋の辺りに出る亡霊にお 会いしてきました。」
「まあ、恐い話ね。それで、どうでしたか。」 「はい、薫子様の妹君で、桜子様とおっしゃるお方でした。」
「まあ、亡霊ではなかったのですね。」
「いいえ、薫子様の亡霊も出るそうです。それで、お祈りをしようと、桜子様が夜に朱色の橋へお 参りしていらっしゃるようです。」
「そうでしたか。」
「桜子様とおっしゃるお方が、とても美しいお方で驚きました。」
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24B美貌(びぼう)
「姉の薫子様は都でも評判の美貌の持ち主でした。それで、隆平様とうわさになったこともありましたのよ。」
「隆平様と?」
「昔の話ですよ。」
「そうですか。」
雪乃は少し胸騒ぎを 覚えました。
「妹君なら 負けないくらいの美しさでしょうね。」
「ええ、とても心配ですわ。」
「でも、外出禁止になってしまいましたね。」
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25先程(さきほど)
「あら?お姉様よくご存じですね。」 「はい、先程、行平様の大きな声がしましたもの。」
「桜子様があまりにも美しくて、雪乃は、隆平様のことが心配です。」
「仕方がない子ね・・・。もうお休みなさい。」
「はい、お姉さま。」
雪乃は奥の部屋へ 行って休むことにしました。
隆平は、屋敷を 抜け出しました。都大路は桜の花が 咲いています。少し 丸くなった月が都の道を 照らしていました。桜は暗闇に白く 浮かんでいます。風が少し 吹くと、少し 揺れます。道の両側に 咲いている桜並木がとても美しい風情です。
隆平が 行った先は桜子の屋敷でした。隆平は、屋敷の奥の間へ直接垣根を 乗り越えて 入りました。
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25B香(かお)り
「桜子様、中にいらっしゃいますか。」
「 聞き覚えのあるお声のようですが、どちらさまですか。」
「先日、朱色の橋でお 会いいたしました隆平でございます。」
「隆平様・・・。どうぞ中へお 入り下さい。」
「はい、それでは失礼いたします。」
隆平が部屋に 入ると、いい香りがしてきました。お香が 焚いてあるようです。 「隆平様、このようなむさくるしいところへ、ようこそおいで下さいました。」
「 実は、先日のことで、もう 少しお話をお 伺いしたくて。」
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26恨み(うらみ)
「はい、どのようなことでございましょう。」
「ええ、薫子様は、人から 恨まれるようなことがございましたのでしょうか。」
「はい、姉は都でも有名な美貌ともてはやされておりました。それゆえ、姉のことを 快く思わない人達がいたことは 確かです。」
「それでは、 恨みによって 殺されたということもありうるわけですね。」
「はい、そのようなことも考えられると思います。」
「それでは、薫子様にいちばん 恨みを 抱いているとしたら、それはだれでしょうか。」
「それは、・・・。」
桜子は、言いかけて一瞬躊躇しました。
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26B事情(じじょう)
「言いにくい事情がおありなのですか・・・。」
「はい、 実は、珠子様がいちばんお 恨みなのではと思います。」
隆平は、ひどく驚いた。
「隆平様は、一度珠子様と 浮き名を 流されたことがございましたでしょう。」
「ええ、そのようなこともございましたが・・・。」
「その後、姉の薫子様とよい仲におなりになりました。」
「 確かに、それはそうです。」
「珠子様は、薫子様のせいで、隆平様が心変わりをなされたとお思いなのです。」
「え?そのようなことはございません。」
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27身分(みぶん)
「はい、私はわかっております。」
「私のような 駆け出しの者と、今をときめく珠子様とでは、身分が 違いすぎます。」 「ええ。」
「珠子様によくしていただくのはうれしいのですが、所詮はかなわぬ恋です。いつか 破れてしまうものならば、傷が深くならないうちにお 別れしたほうがよいと 思ったのです。」
「きっと、そうだと 思っていました。」
「なぜですか。」
「姉の薫子様が、 申しておりました。隆平様の中には、まだ 忘れられないお人がいらっしゃるようだと。それは、珠子様ではないのかと。」
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27B1必死(ひっし)
「いいえ、何かを必死で 忘れようとなさっているご様子だと、 申しておりました。」
「そうでしたか。そう見えたかもしれません。」
隆平は、昔を 振り返ってみました。
「 確かに、珠子様に 憧れたことがありました。しかし、珠子様はご身分が 高く、自分には手の 届かない存在だと 思ったのです。珠子様のお兄様にも、珠子様に 会うことをとめられたのです。そのときはどれほど 嘆き悲しんだことか。しかし、それを 忘れようとして、薫子様と時を 過ごしたわけではありません。私は、薫子様のすばらしいお人柄や歌の才能に心惹かれたのです。」
「そうですか。姉は珠子様の代役ではなかったわけですね。」
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27B2 何(なに)も
「はい、 決してそのようなことではございません。」
「しかし、珠子様のほうは、薫子様に隆平様を 取られたとお思いのようでした。」
「そんなことは、ないのですが・・・。」
「珠子様は何もご存じないのです。珠子様の兄上様が、隆平様に 対して屋敷に 通うことを 禁じたことも・・・。珠子様は、隆平様が突然来なくなったので、なぜだろうかと 思っていらっしゃに 違いありません。その後すぐに、薫子様との 浮き名が流れました。それで、勘違いなさったのではないでしょうか。」
「しかし、珠子様はそのようなことで人を 殺めたりするようなお方ではございません。」
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27B3 純真(じゅんしん)
「はい、私もよく存じております。珠子様は純真無垢な 子どもようなお方です。きっと、何もご存じないのでしょう。しかし、珠子様をかわいく 思う 周りが、珠子様の気持ちを感じて、行動に 移ることがあるかもしれません。」
「そんなことがあるのですか?」
「はい、闇の部隊のようなものがあるといううわさです。誘拐や毒殺など裏の仕事を一手に 引き受けている人達です。大きな一族が繁栄するためには、そう言った人達が必要だと言われています。その部隊が、影で敵を 葬って行くと言うのです。」
「しかし、薫子様のことは、一族の存亡にはかかわりがないのではないでしょうか。」
「それはわかりません。ただの個人的な 恨みかもしれません。」
「そうでしたか。突然お邪魔をいたしました。これで失礼いたします。」
「隆平様、またいらして下さい。お待ちしております。」
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28 禁止(きんし)
隆平は、桜子様の屋敷を 去って、自分の屋敷に帰りました。
雪乃は、外出禁止になったので屋敷でおとなしくしていました。玄関のほうでなにやら物音がします。今日、惟忠は所用で外出しており、留守でした。雪乃が、玄関まで 行ってみると客が来ていました。
「隆平殿はいらっしゃいますか?」
「いいえ、隆平様はお出かけになっております。」
「どちらへお出かけなのでしょうか?」
「すみません。いつも突然どこかへお出かけになるお方で、私も 存じておりません。」
「ははは、それは、隆平殿らしいやんちゃぶりですね。」
「隆平様をよくご存じなのですか。」
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28B 失礼(しつれい)
「はい、いつも一緒に 遊んでいます。」 「失礼ですが、どちら様でしょうか。」
「これは 申し送れました。敏行と 申します。」
「敏行様・・・。おうわさはよく 伺っております。」
「どうせろくなうわさではないでしょう。」
「いいえ、そんなことはございませんわ。」
「そのうちお帰りになると思いますので、 上がってお待ち下さい。」
「そうですか。それでは失礼いたします。」
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29 客間(きゃくま)
雪乃は、敏行を客間に案内した。
「敏行様は、隆平様のことをよくご存じなのですか。」
「はい、いつも一緒にいることが 多いので。」
「隆平様は、どんなお方なのですか。」
「それは、私よりも身近にいる雪乃殿のほうがご存じなのでは。」
「いいえ、わからないことが多すぎます。」
「そうですか。 例えばどんなことですか。」
「はい、 例えば隆平様が思いを 寄せていらっしゃるお方はどなたですか。」
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29B 無駄(むだ)
「それは、この敏行にもわかりませぬ。」
「そうですか。」
「隆平殿のことがお好きなのですか。」
「いいえ、私などは身分が 違いすぎて、思いを 寄せても無駄でございます。」
「そうですか。それはおつらいですね。」 「いいえ、敏行様は 優しいお方ですね。」
雪乃は、敏行のことも素敵な男性だと思いました。
「いいえ、そんなことはありませんよ。」
「最近は、桜子様に熱をあげていらっしゃるご様子です。」
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30 似(に)て
「桜子様・・・。もしかして薫子様の妹君のですか。」
「はい、そうです。」
「そうですか。桜子様は薫子様によく似ていらっしゃるから。」
「薫子様とはそんなにお美しい方だったのですか。」
「それはもう、人もうらやむほどの美貌で、男性の 憧れの的でした。隆平殿も随分熱をあげたと思います。」
「そうでしたか・・・。」
「 寂しそうですね。」
「その半分でもいいので、私のことを 思ってほしいものです。」
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30B 冗談(じょうだん)
「私ではいかがですか。」
「まあ、敏行様、ご冗談ばかり・・・。」
「まるっきり冗談でもないのですが、・・・。」
敏行は、そう答えました。
「でも、私、桜子様のことも好きです。」
雪乃はそう言いました。
「桜子様はお人柄もよいお方ですから・・・。」
敏行はそう言いました。
「隆平様と桜子様だったら、お似合いだし、仕方がないかなと雪乃も思います。」
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31 玄関(げんかん)
「本当ですか。」
「ええ、でも 寂しいですね。」
雪乃は本当に 寂しそうにそう言いました。
そのとき玄関で物音がしました。どうやらだれか帰ってきたようです。雪乃が 走るようにして玄関に出てみると、それは隆平でした。
「隆平様・・・。」
「ああ、雪乃、遅くなってしまったね。」
「敏行様が客間でお待ちでございます。」
「敏行殿が・・・?ちょうどいい。お 尋ねしたいことがありました。」
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31B 邪魔(じゃま)
そう言うと、隆平は客間に 急ぎました。
「お邪魔していますよ、隆平殿。」
「敏行殿、ようこそいらっしゃいました。お 尋ねしたいことがあります。」
「そうですか。私もお話したことがあって 参ったのです。」
「それでは、敏行殿からどうぞおっしゃって下さい。」
「いや、隆平殿からどうぞ・・・。」
「 譲りあっていても何ですから、お 尋ねいたします。」
「ええ。」
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32 問題(もんだい)
「闇の部隊と言うのをご存じですか。」
「あまり 詳しくは 存じませんが・・・。」
「薫子様殺害のことと関係があると思いますか?」
敏行は、しばらく考えました。
「あまり、個人的な 恨み等で 動くとは 思えませんが、可能性としては、考えられることだと思います。」
「個人的な 恨みだと思いますか。」
「それは、わかりません。政治的な問題もあるかもしれません。」
「政治的な問題があるのですか。」
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32B予定(よてい)
「ええ、薫子様は天子様の元へ入内なさる予定だったのです。」
「天子様の元へですか。」
「ええ、そして珠子様も天子様の元へ入内なさる予定でした。」
「珠子様も・・・。」
「ええ、両家は天子様のお妃の座を 狙う者同士だったわけです。」
「あからさまに薫子様を 狙うなどということがありえますか。」 「いいえ、それでは両家の間で 激しい争いが 起きます。」
「それではなぜ?」
「両家に争いが 起きなかったのは、珠子様の家が圧倒的に強いからです。」
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33弱い(よわい)
「そうなのですか。」
「はい、財力、軍事力、権力等どれをとっても問題になりません。」
「問題にならないくらい 弱い貴族なのにどうして 狙われるのですか?」
「それは薫子様のあまりに美しい美貌です。」
「美貌ですか・・・。」
「ええ、 後ろ盾が 弱いからといって、あの美貌です。天子様が夢中になってしまわれる可能性が十分にあります。」
「なるほど、それで、闇の部隊が 動くということは、相当重要な問題ということになりますか。」
「ええ、闇の部隊が 動かせるのは、それ相当の人物です。一族の中心人物かそれに 近い人物でしょう。」
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33B満月(まんげつ)
「やはり、そう考えますか。」
「ええ、そうでしょうね。」
「薫子様の亡霊は、以前満月の夜に現れたそうです。」
「満月の夜ですか。」
「また、現れるでしょうか。」
「満月には不思議な力があると言います。また、現れるかもしれません。」
「そうですか。何か 聞けるでしょうか。」
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34霊(れい)
「それはどうかわかりませんね。」
霊が現れても、話ができるかどうかはわからないと、隆平は思いました。
隆平は、敏行から話を聞いて、自分の考えを確認できたようでした。
「私の話はそれだけです。次は敏行殿のお話を 伺いましょう。」
「そうですか。桜子様のところに 通っているといううわさを聞きましたが・・・。」
「はい、薫子様の事件について話を 伺っております。」
「そうでしたか。」
敏行は、しばらく 考え事をしている様子でした。
「 実は、珠子様が誘拐されるといううわさがあるようです。」
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34B闇(やみ)
「それは 確かですか。」
「わかりません。情報源は闇の部隊の情報部門です。」
「闇の部隊の?」
「ええ、ちらりと 漏れ聞きました・・・。」
「それで、だれが誘拐を 企てているのですか?」
「鬼だといううわさです。」
「鬼ですか・・・。」
「 確か桜子様のお供の者に一際腕の立つ鬼がいると聞きました。」
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35一度(いちど)
「鬼丸殿のことですね。」
「ご存じでしたか。」
「ええ、一度刀を 交わしたことがあります。」
「刀を?さすが隆平殿ですね。それで腕はいかほどでした。」
「あれは相当の手だれです。普通の人間ならば、何人いてもあっという 間にやられてしまうでしょう。」
「やはりそうですか。闇の部隊が警戒を 強めているようです。」
「そうでしたか。」
敏行は、また 考え事をしているようでした。
「しかし、これは罠かもしれません。」
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35B罠(わな)
「罠ですか?」
「ええ、嘘の情報を流して、罪を 着せる計画かもしれません。」
「だれにですか?」
「珠子様を 恨んでいると思われる危険人物と言えば・・・。」
「桜子様と鬼丸殿ですか。」
「薫子様 亡きあと、入内なさるのは桜子様だといううわさです。」
「そうなのですか。」
隆平は、その話を聞いて 寂しく思いました。
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