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森の国フォレス
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森の国フォレス1へ
じんぶつ
ジャン
フォレス国王
長老の木の精
ミーナ
ミーシャ
コスト国の女王
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1 森の国
美しいドーヌ川の上流に、森の国フォレスがありました。その国の王子にジャンという少年がいました。ジャンが森の中を歩くと、木の精や花の精が話しかけてきます。父親の王は、森の精たちが話しかけるのは、子どもだけだと言います。
ジャンの幼なじみにミーナという女の子がいました。ミーナはドーヌ川の中流にある平野の国グリナのお姫様です。ミーナは美しくて聡明な女の子でした。二人の国は争いもなく仲よく助け合っていました。二人は城同士が近いので、幼いときからよく一緒に森や平野で遊びました。フォレス国の森でお話をしたり、グリナ国の平野をかけまわったりして遊びました。
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1B 海岸の国
ドーヌ川の下流には海岸の国コストがありました。コストは広い国土と大きな海をもっていました。国は、海からとれる魚や貝のおかげで豊かにうるおっていました。コスト国の女王は、その富で強い軍隊を鍛え、さらに領土を拡大する野心をもっていました。コスト国は代々女王が国を治めていました。
しかし、女王には大きな悩みがありました。それは跡継ぎが生まれなかったことです。女王は、若くて聡明な女の子を探していました。そして、グリナ国のミーナ姫が、若くて聡明な姫だという評判を聞きつけました。コスト国の女王は、グリナ国の女王にミーナ姫を養女にくれるように申し入れました。グリナ国の女王はその申し入れを断りました。かわいい姫を他の国にやるわけにはいきません。
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2 売らない
コスト国の女王は、断れば魚や貝はグリナ国に売らないと言いました。さらに、強力な軍隊をひきいて攻め込んで行く覚悟だと言いました。聡明な跡継ぎがいなければ、どのみち国は滅んでしまうので、何が何でもミーナ姫が欲しいといった勢いでした。グリナ国の女王は困ってしまいました。
「お母様、わたしはコスト国へまいります。魚や貝がなければ民が困ります。コスト国が攻めてくれば多くの民が亡くなります。わたしは姫ですから、民のために役に立ちたいと思います。グリナ国にはまだ妹のミーシャがいますから、安心です。」
グリナ国の女王は泣いていました。ミーナはお母様を心配させるといけないので、涙を見せませんでした。
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2B 長老の木
フォレス国の森の中には一本の大きな木があります。ジャンとミーナはよくその木の下で会っていました。何千年も生きている木で、長老の木と呼ばれていました。太い幹で、大きい枝が屋根のようになっています。ジャンが長老の木に行くと、ミーナが一人で泣いていました。
「どうしたの、ミーナ。何かあったの?」
「わたしコスト国へ養女に行かなければならなくなったの。」
ジャンは驚きました。コスト国は、グリナ国よりさらに遠いところにあります。もう、簡単に会うことはできなくなってしまいます。行かなくてもいい方法がないかミーナに聞いてみました。しかし、ミーナは首をふるばかりです。ジャンは悲しくなりました。ミーナの涙が下に落ちていた長老の木の葉にこぼれました。
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3 涙
木の葉はみるみる紅色に染まっていきました。フォレス国の不思議な森の木の葉は、涙にぬれると色が変わります。木の葉たちにも悲しみが伝わっているようでした。
ミーナ姫がコスト国へ旅立つ日が来ました。コスト国から綺麗な装いの家来たちが行列を作って迎えに来ました。真ん中にはミーナ姫の乗る馬車がありました。
コスト国の女王が中から出てきました。家来たちがいっせいに敬礼をして、ラッパの音が鳴り響きました。
「お母様、お別れです。」
ミーナ姫はじゅうたんの上を歩いて行きました。グリナ国の女王も妹のミーシャも家来も民もみんな泣いていました。ジャンはコスト国の女王にお願いしてみました。
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3B跡継ぎ
「コスト国の女王陛下に申し上げます。わたしはフォレス国の王子ジャンです。なんとかミーナ姫を連れて行くのをやめていただけないでしょうか。」
「あなたがジャン王子ですか。聡明な王子だと聞いております。わが国では跡継ぎの姫を必要としています。ミーナ姫にはつらいことですが、コスト国の未来には聡明な指導者が必要なのです。」
「そのためにグリナ国の女王や民に悲しいつらい思いをさせねばなりません。人々を悲しませたり苦しめたりすると、いつかその報いをうけなければいけません。」
「コスト国の発展のためには多少の犠牲は仕方がありません。ミーナ姫が帰りたくなるといけないから、会うことも手紙も禁じます。ジャン王子もミーナ姫のことは忘れてください。」
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4 悲しみ
ジャンは悲しくなりました。会うこともできなくなりそうです。
コスト国ではミーナ姫を向かえるために盛大なパーティーが用意されていました。コスト国のために来てくれたミーナ姫は、民や家来に大歓迎をうけました。そして、その美しさと聡明さに、民や家来の熱狂的な支持をうけました。コスト国の女王はますますミーナ姫のことが気に入り、手ばなせなくなりました。 ジャンは長老の木の下で悲しみに沈んでいました。ミーナと別れ別れになってしまいました。落ち葉に涙がこぼれると紅色に葉が染まりました。木の葉も悲しんでいるようです。いや、森全体がジャンと一緒に悲しんでいるようでした。夜になって、冷たい風が吹いてきました。ジャンは一晩中悲しみ続けました。ジャンの涙は朝露となって森の木の葉にこぼれました。
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4B 手紙
すると、木々の緑の葉が、つぎつぎにその色を変えて行きました。あるものは紅色に、あるものは黄色になりました。
ジャンは長老の木に話しかけました。
「長老様、わたしはミーナ姫と会えなくなってしまいました。どうしたらいいでしょうか。手紙を出しても渡さないと言われました。」
長老の木の精の太く静かな声が、心の中に響いてきました。
「涙で色が変わった森の木の葉に、わしの体についている魔法の枝で文字を書いて、湖に流してごらん。毎日願いを込めて流せば、海岸の国に流れ着いて、思いが伝わるかもしれないよ。」
それから、毎日ジャンは魔法の枝で葉っぱに手紙を書いて湖に流しました。
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5 偶然
一日に何通も書いて、どうかミーナ姫に届きますようにと願いこめて流しました。人に届けてもらう手紙や伝書鳩などは検査されてしまうに違いありません。いまのところ、偶然ミーナ姫がこの葉っぱの手紙を目にすることを祈るしかありません。書いているうちに長老の木のまわりの森の木には葉っぱがなくなってしまいました。
これだけ書いても何の返事もないのだから、きっとミーナ姫の目にふれることはなかったのだと思いました。ジャンは悲しくなりました。ジャンの涙は森全体を悲しくさせました。そして、森も一緒に泣きました。森の涙は雨となって、来る日も来る日も降り続けました。雨は森の木の下のふかふかの土の中にためこまれていきました。そのため川があふれることはありませんでした。
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5B 宮殿
コスト国の女王はミーナ姫のために新しい宮殿を造ると言いました。ミーナ姫は断りました。そんな余裕があるなら、貧しい民のために使って欲しいと思ったからです。しかし、国を治めるためには、それにふさわしい宮殿が必要だとゆずりません。コスト国には海からとれた魚や貝のおかげで莫大な富があります。いろいろな国から宮殿を建設する材料を買い集めました。
それに、コスト国は強力な軍隊をもっています。国の中でも外でも、女王の決定に逆らう人はいませんでした。フォレス国にも、宮殿建設のための材料の注文が来ました。大きな宮殿を造るので、建築用の木材を山一つ分欲しいというのです。フォレス国の王は断りました。森の木は国の大切な財産です。山の木は暮らしに必要な分しか切ってはいけないと言い伝えられて来ています。
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6 反対
必要以上に切ると、森の神様が怒って、どんな災いがもたらされるかわかりません。しかし、コスト国の女王は木を売らなければ、魚や貝も売らないと言いました。魚や貝がなければ民は困ってしまいます。その上、強力な軍隊を派遣して、何が何でも木を手に入れるつもりだと言いました。戦争になれば多くの民が亡くなります。王は泣く泣く木を切ることを承知しました。
「父上、わたしは木を切ることには反対です。代々必要な分しか木を切ってはいけないと言い伝えられています。贅沢な宮殿建設のために必要以上の木を切れば森の神様の怒りにふれるかもしれません。」
「ジャン、そんなことはわかっておる。コスト国の脅威から民を守るためには仕方がないのじゃ。」
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6B 一山分
王も苦渋の決断だったようです。
コスト国宮殿建設のために森の木は一山分切られました。ドーヌ川に面した一つの山が禿山になってしまいました。フォレス国の王は自分の身が切られるようにつらい思いをしました。
これからこの山の木が大きくなるのには何十年もかかります。それが森になるためには何百年もかかります。ジャンは木のなくなってしまった山を見て悲しくなりました。どの山の森も小さいころからかけまわって遊んだ思い出の森です。自分に力がないばかりに森を守れず、申し訳ないと思いました。
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7 雨
森には悲しみの雨が降り続いていました。雨は、森の木の下のふかふかの土にためこまれていましたが、そろそろそれも限界のようです。少しずつ森から水がもれ始めました。少しの水も広大な森から集まってくると大水になります。川の支流が大水であふれ、それがドーヌ川に集まってきました。しかも、雨が禿山の土や岩に直接降り注ぎました。土や砂や岩が山から流れ出し、ドーヌ川に大量に流れ込みました
ドーヌ川は大水であふれかえり、狂ったように濁流となって流れて行きました。風も吹き荒れています。どうやら、森の神様の怒りにふれてしまったようです。多くの支流を集める下流地域では大洪水になり、家や畑を押し流しました。海岸の地域では、土や砂が海の中まで降り注ぎました。
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7B 怒り
河口に近い海の貝や海藻は、土や砂に埋まってしまいました。下流のコスト国は洪水によって大きな被害をこうむりました。女王が無茶な政治を行うので、神の怒りにふれたのだといううわさが国をかけめぐりました。
ジャンは泣き続けたので、涙が枯れてきました。いくら手紙を書いても返事が返ってきません。もう何通書いたかわからないくらい書きました。長老の木の下でぼんやり失意の日を過ごすことが多くなりました。すると、不思議なことに森に乾いた風が吹き始め、雨が降らなくなりました。来る日も来る日も雨は一滴も降らなくなりました。支流の水も枯れてきました。ドーヌ川の水が日に日に少なくなって行きました。
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8 渇水
もう収穫の季節を終えたので農業にはさほど影響はありません。しかし、河口付近の海では、とれる魚の数が極端に少なくなってきました。川が枯れ始めて、森から栄養を運んでこなくなったからです。川から流れてくる栄養を元に育つプランクトンの数が減ったため、それを餌とする魚介類の数も減ってしまいました。当然大きな魚も寄り付かなくなりました。洪水と渇水でコスト国の海は、死の海となってしまったのです。人々を悲しませ苦しめ、森の木を切らせた報いが女王にめぐって来ました。女王は森の神様の怒りにふれてしまったのです。
ミーナ姫は海の様子を見に海岸へ行くことにしました。ミーナは、グリナ国の女王やジャンに手紙を書いても返事が来ないので、忘れられてしまったのかと悲しく思っていました。一度くらい手紙をくれたり、会いに来てくれたりしてもいいのにと寂しく思っていました。
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8B 葉
ミーナ姫はコスト国の女王が面会や手紙を禁じていることを知りません。海岸はひっそりとしていました。ミーナ姫はあたりを見回し不思議なことに気がつきました。海岸中が紅色や黄色の葉っぱで埋め尽くされているのです。洪水で流されて来たに違いありません。葉っぱを拾って見てみると、なにやら文字が書かれています。それはジャンからの手紙でした。
よく見ると、どの葉っぱにも文字が書かれています。この海岸を埋め尽くしているすべての葉っぱがジャンからの手紙だとわかりました。葉っぱの色が紅色や黄色に変わっているのは、ジャンの涙のせいだとわかりました。ミーナは、手紙や面会が禁じられていたから、葉っぱに書いて流されたのだと悟りました。自分の書いた手紙もおそらく届いていないと悟りました。ミーナはジャンに会いたいと思いました。
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9 小鳥
ジャンが長老の木の下でぼんやりしていると、見覚えのある小鳥が飛んできました。それは以前この長老の木の下でケガをしているところを、ミーナが助けてずっと飼っていた小鳥でした。ミーナが空に逃がしたので、自分の家である長老の木に戻ってきたのでしょう。よく見ると、脚のところに手紙がくくりつけてありました。それはミーナ姫からのコスト国王室のクリスマスパーティーの招待状でした。
クリスマスの夜、馬をとばしてコスト城に着いたジャン王子は、宮廷に案内されました。そこでミーナ姫と久しぶりの対面を果たすことができました。ジャン王子もミーナ姫も顔中笑顔でいっぱいでした。コスト国の女王陛下が現れました。
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9B 重要性
9B 重要性
「ジャン王子、コスト城へようこそ。今回の洪水と渇水で森の国の重要性を思い知らされました。王子が言ったように、わたしは人を苦しめた報いをうけてしまったようです。これからは、宮殿建設も領土拡大もやめて、周辺諸国と仲良くすることにしました。もちろん手紙も面会も許します。」
女王は照れくさそうにそう言いました。ジャンとミーナは顔を見合わせて大喜びをしました。
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