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みかん
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こちゃまる
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もくじ みかん
1 光っている
こちゃまるは、旅をしながら修行をしているこどもの僧です。こちゃまるは、小さな村の入り口にたどりつきました。そこに小さなおみせがあります。みせさきにはみかんがならんでいました。よく見ると、その中に光っているみかんがあります。みかんは十個くらいずつ小さなかごの中に入れられていました。かごはぜんぶで五つあります。こちゃまるは自分の目をこすって、もういちどよく見てみました。やはりほんのりと光っているようです。いちばん右はしのかごのいちばん上にあるみかんです。こちゃまるは走ってみせまでいくと、みせのおじさんに言いました。
「おじさん、このみかんひとつ売ってください。すこし光っているよね」
「ああ、よくみがいたからな」 おじさんは笑ってそう言いました。こちゃまるが手にとったみかんを見ると、もう光っていませんでした。ほかのみかんとおなじ色をしています。
「気のせいだったのかなあ?たしかに光っていた気がするんだけど」
せっかくめずらしいみかんを見つけたと思ったのに、こちゃまるはなんだか損をした気分でした。
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2 みかんの皮
こちゃまるは、みかんを手にもって歩いていきました。ときどきみかんをぽんぽんと宙に投げます。みかんをながめていたら、なんだかおなかがすいてきました。
「もっていてもしかたないから、食べてしまおう」
こちゃまるは道ばたの石にすわると、みかんの皮をむきました。
「あまくておいしいなあ」 こちゃまるは、やはりみかんを買ってよかったと思いました。
食べたあと、皮をすてようと手にとったとき変なことに気がつきました。
「あれ?みかんの皮のうらに何かかいてあるぞ?」
みかんのうらには、線がいっぱいかいてあります。それにお寺やおみせの絵がかいてあります。
「この線は道かな?みかんの皮のうらにかいた地図?この星印はなんだろう?」
絵のお寺の中に星印がついています。こちゃまるは、みかんの地図を見ながら、お寺にいってみることにしました。
こちゃまるは、みかんの皮のうらを見ながら、道を歩いています。
「えーっと、みかんの地図によると、このあたりかな?」
こちゃまるが歩いていくと、古い大きなお寺が見えてきました。
「このお寺かなあ?何があるのかな?」
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3 和尚さん
こちゃまるは、お寺の門から中をのぞきました。本堂の前の石段に、和尚さんが、頭をかかえてすわっていました。
「なんだろう?」 こちゃまるは門から入って、和尚さんに近づいていきました。
「和尚さん、どうなさったのですか?何かなやみごとでも・・・?」
「ああ、君はだれかな?」
「ぼくは旅の修行僧でこちゃまると申します」
「こちゃまるか…。わしはこのお寺の僧で大寛と申す。実は、村の人がわしのことを、みかん和尚とよぶので、こまっておるのだよ」
「え?みかん和尚?いい名前だと思うけど…」
「いやいや、わしにはちゃんと大寛という名があるのじゃ。ちゃんと自分の名前で、大寛和尚とよんでほしいのじゃよ。こまったものじゃ。それで、あのみかんの木を切ってしまおうと思うのだが…。もったいないかな?」
和尚が指さす庭には、大きなみかんの木がありました。ぜんぶで十本くらいのりっぱな木があります。どの木にもみかんの実がいっぱいなっていました。真ん中あたりにひときわ大きな木があります。
「みかんの木を切るの?」
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4 もったいない
こちゃまるがそう言うと、いちばん大きな木のみかんの実が光ったような気がしました。
「あれ?みかんの実が光ったような気がするなあ」
こちゃまるはいちばん大きな木に近づいていきました。
「変だな?光ったような気がしたけど…。和尚さんひとつもらうよ」
「だめじゃ、だめじゃ。もったいない」
「もう、けちな和尚さんだなあ。光るみかんかたしかめようと思ったのに…」
「みかんが光るわけなどないわい」
「こんなりっぱな木を切ってしまうのは、やはりもったいないと思うよ」
こちゃまるがそう言うと、みかんの実がまた光りました。
「うん、やはりもったいないかの?」 和尚さんはそうつぶやきました。
「やはり、みかんの実がすこし光ったような気がする…」
こちゃまるはそうつぶやきました。
そのときお寺の塀の外から声がしました。
「和尚さん、旅から帰ってきた村の者ですが、もう歩きつかれてたおれそうです。おいしそうなみかんをわけてくださいな」
和尚さんは塀の外にむかって言いました。
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5 みかん和尚
「だめだめ、もったいない。どこかほかへ行っておくれ」
村人はしょんぼりして、いってしまいました。
「和尚さん、みかんをわけてあげればいいのに」
「ああ、うるさい。もったいないわい。わしをみかん和尚とよぶような村のやつらに、みかんなどやれるか。ちゃんと大寛和尚と自分の名前でよんでほしいものじゃ。どうしたらよいかのう?そのためだったら、なんでもするのじゃが…」
和尚さんは、また頭をかかえこんでしまいました。
「みかん和尚とよばれないようにするためになら、なんでもするの?」
「ああ、なんでもいいぞ」
「じゃあ、うまくいったら、あのみかんをぼくにぜんぶくれる」
「みかんか…。もったいないけどいいぞ。切ってしまおうかと思っているくらいだからな」
こちゃまるは庭みかんの木をじっと見つめました。そしてじっと考えました。
「ん〜、どうすればいいのかなあ。よし、そうだ」こちゃまるは何かひらめいたようです。こちゃまるはお寺の門まで走っていくと、その上によじのぼりました。やねの上は高くて村中を見わたせます。小さな村なので、家はそんなにおおくありません。こちゃまるは、村中にひびくような大きな声で言いました。
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6 びっくり
「村のみなさん。お寺にあつまってください。和尚さんがみかんを村のみなさんにあげます」
和尚さんがみかんをくれるといううわさは、またたくまに村中にひろがりました。
「ほんとうだろうか?」
「あのけちな和尚さんがまさか…」
村人は口々にうわさをしながらあつまってきます。びっくりしたのは和尚さんです。
「これ!こちゃまるよ。わしのことをみかん和尚とよぶ村人に、みかんをやるなどと言っていないぞ」
「やだなあ、和尚さん。みかん和尚とよばれなくなったら、みかんをぜんぶぼくにくれるって言ったじゃないですか。みかん和尚とよばれるのがいやで、切ってしまうつもりだったんでしょう?ぼくにまかせて」
和尚さんは真っ赤になって怒ったあと、真っ青になってたおれそうになり、頭をかかえこんでうずくまりました。
「村のみなさん。お寺の庭にあつまって。まだ、食べてはだめですよ」
こちゃまるは和尚さんにおかまいなしに、村人を庭にまねき入れました。
「旅の僧さんよ。ほんとうかね?あのけちなみかん和尚がみかんをくれるなんて、今までいちどもなかったので、信じられないんだが…」
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7 演説
「そうだ、そうだ。いいかげんなことを言って、おれたちをだますとゆるさないぞ」
庭にあつまった村人は口々にそう言いました。こちゃまるは、みかんを入れる大きな箱をもってきました。そして、その上にのりました。こちゃまるは、まだこどもで背が小さいので、何かにのらないと、大人とおなじ背の高さになりません。
「村のみなさん…」
こちゃまるの演説がはじまりました。
「和尚さんは、村のみなさんが和尚のことをみかん和尚とよぶのをいやがっています」
「なんでだ?」
「いいじゃないか。りっぱなみかんをいっぱいもっているんだし…」
「だいたい、みかんをたくさんもっているくせに、いちどもくれたことがない」 村の人々は、口々にそう言いました。
こちゃまるは、さらに声を大きくして言いました。
「和尚さんは自分の名前の大寛和尚とよんでほしいと言っています。それがほんとうの名前なのだから。みかんが庭にあるからと言って、みかん和尚とよんでほしくないと言っています。みなさんは、自分以外の名前で自分がよばれたとしたら、うれしいですか?」
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8 安心
「うん…。あまりいいきもちはしないかもしれないなあ」
「でも、そんなこと気にするのは変よ」
「わたしは、みかんという名は、かわいいと思います」
「そうじゃ、わしもいい名前だと思うぞ。でも和尚 さんが、そうよばれたくないというなら、そうよぶことはやめるぞ」
「じゃあ、わたしもやめる。」 それを聞いてこちゃまるは言いました。
「村のみなさん、和尚さんのことを、大寛和尚とこれからはよんでくれますか?」
「いいよ」 村人は、声をそろえていっせいに言いました。和尚さんはその言葉を聞いて、ほっと安心したようでした。
「和尚さん、村人はみんな、みかん和尚とよぶのをやめると言っています。これでいいですか?」
「ありがとうこちゃまる。たすかったよ」
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9 きまえがいい
「じゃあ、村のみなさん。きょうはあつまってもらったおれいに、和尚さんからみかんのプレゼントがあります」
村人の中にどよめきが走りました。
「やったあ」
「なんだ、きまえがいいじゃないか」 「大きいみかんの実でおいしそうだ」
「和尚さんばんざい」
村の人々は、口々にそう言いながら、みかんを食べました。こちゃまると大寛和尚は、うれしそうにそのようすを見ていました。そして顔をみあわせて笑いました。
「こんなふうでよかったのかな?切られなくてよかったね」
こちゃまるは、いちばん大きい木に近づいて、そう言いました。大きな木の先端に、まだ残っているみかんの実が、すこし光ったような気がしました。
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