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深夜しんや四号室よんごうしつ  もどる
1

 ぼくは、こどものころりょう生活せいかつをしていました。りょうふる木造建築もくぞうけんちくで、みるからに幽霊屋敷ゆうれいやしきといったかんじでした。うすぐらい廊下ろうかをとおると、きいきいときしむおとがします。ふとると、三号室さんごうしつのとなりが、なぜか五号室ごごうしつになっています。
先輩せんぱい、どうして四号室よんごうしつはないのですか?」
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1B

「ああ、とおなじかたで、縁起えんぎわるいからだ。」ホテルなんかでも、四号室よんごうしつがないというのはよくあることなんだそうです。
深夜しんや三号室さんごうしつ五号室ごごうしつのあいだをるなよ」
「え?どうして」
四号室よんごうしつがあらわれるからさ、けっしてなかをのぞくなよ」 先輩せんぱいはこわいことをって、ぼくをおどかします。
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2

 りょうひがしとうなかとう西にしとうにわかれていました。ぼくは、西にしとう二階にかい七号室ななごうしつにいます。一階いっかいいちさん五号室ごごうしつがあります。
 ある先輩せんぱいもみんなも実家じっかかえってしまい、西にしとうでただ一人ひとり留守番るすばんになりました。だれもいないふるりょうはさすがに不気味ぶきみです。ぼくは、部屋へやからないようにじっとしていました。自分じぶん部屋へやにじっとしていれば幽霊ゆうれいないし、安全あんぜんだとおもったのです。しかし、どうしてもトイレにきたくなりました。
 トイレは一階いっかい一号室いちごうしつのとなりです。そこへくためには階段かいだんをおりて、さん一号室いちごうしつまえをとおらないといけません。しかたがないので、おそるおそるくことにしました。
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2B

 階段かいだん電気でんきをつけても、不気味ぶきみです。かえしのおどおおきなかがみがあります。深夜しんやにこれをてはいけないと、先輩せんぱいわれているのでないようにあるきました。一階いっかいにおりました。
 一階いっかいくと、一部屋ひとへやだけかりのついた部屋へやがありました。今日きょうはぼくしかいないはずなのにおかしいなあとおもいました。それで、ないようにしてとおりすぎようとしました。
「キムラ〜、ちょっとよっていけ〜」 部屋へやまえをとおろうとすると、先輩せんぱいこえがします。今日きょう実家じっかかえっていないはずなのにおかしいなあとおもいました。
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3

 でも、先輩せんぱい無視むしするとあとで、大変たいへんです。部屋へやると、四号室よんごうしつです。昼間ひるま四号室よんごうしつはありませんでした。ぼくは、背筋せすじつめたいものがはしりました。はやくげだしたいとおもったのですが、あしががくがくしてうまくげられません。がかってにうごいて、ドアのノブをまわします。
「あ、ばか。部屋へやにはいるな」 こころなかでそうおもっても、からだうことをききません。もう幽霊ゆうれいにあやつられているのかもしれません。なかにはいると、先輩せんぱいはいませんでした。かわりにやさしそうなおにいさんがいました。きっと先輩せんぱいとおなじくらいの学年がくねんです。ぼくはすこし安心あんしんしました。でも、存在感そんざいかんのないかげのうすそうなひとでした。
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3B

「こんなさびしいところにようこそ。おちゃでもいかが」 直接ちょくせつ心に響ひびいてくるこえです。でも、ぼくはくびをよこにふりました。はやくここからげたいとおもいました。
「じゃあいっしょにちかくの神社じんじゃにあそびにいかないかい?」 ぼくはくびをよこにふりました。こんな夜中よなかにそんなところにったらなにるかわかりません。
「そう、やっぱり…。だれもぼくの友達ともだちになってくれないんだ…」 やさしそうなおにいさんはきながらそういました。ぼくはすこしどくになりました。ちょっとだけならってあげてもいいかなあとおもいました。
「ちょっとだけなら…・」 そういかけたときです。
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4

「キムラ〜、いまかえったぞ〜」 先輩せんぱいおおきなこえがしました。ぼくははっとしました。すると、なにか目覚めざめたかんじであし自由じゆううごくようになりました。がつくと、ぼくは階段かいだんをおりた三号室さんごうしつ五号室ごごうしつのあいだで、ぼうっとっていました。
「キムラ、なにこんなところで、ぼうっとっているんだ?まさか、四号室よんごうしつたのか?」 ぼくはうなずきました。
「じゃあ、四号室よんごうしつ幽霊ゆうれいちかくの神社じんじゃあそびにいこうとさそわれなかったか?」 ぼくは、うなずきました。
「あぶなかったなあ。あやうく幽霊ゆうれい地獄じごくにつれていかれるところだったなあ」
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4B

 どうやらぼくは、先輩せんぱいがたまたまかえってきてこえをかけてくれたからたすかったようです。深夜しんや三号室さんごうしつ五号室ごごうしつのあいだをるなといわれたのに、てしまったので、幽霊ゆうれいにとりつかれたようです。先輩せんぱいはなしによると、このふる幽霊屋敷ゆうれいやしきのようなりょうつまえに、さらにふるりょうがここにっていたそうです。それをこわして、ぼくのんでいるりょうはできたそうです。
 そのもう一つ前まえりょうにはちゃんと四号室よんごうしつがあったそうです。しかし、そこにんでいるひとくびをつってんだそうです。なんでも勉強べんきょう友達ともだちのことになやんでのすえのことだったようです。四号室よんごうしつれいにとりつかれてぬといううわさがたちました。それで、あたらしいりょうてるとき四号室よんごうしつつくらなかったということです。りょうにそんなかなしい歴史れきしがあるなんてりませんでした。
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お風呂に出る幽霊おふろにでるゆうれい もどる
1

お風呂に出る幽霊おふろにでるゆうれい
 ぼくは、学生がくせいのころふるりょうんでいました。そのりょう近所きんじょひとたちから幽霊屋敷ゆうれいやしきとよばれていました。戦前せんぜんてられたそのふる木造建築もくぞうけんちくは、あちことがちていまにもくずちそうでした。つたがからまったその姿すがたはいかにも幽霊ゆうれいそうな不気味ぶきみ雰囲気ふんいきをかもししていました。
 りょうにはおおきなお風呂ふろがあります。10にんくらいは一度いちどはいれるお風呂ふろで、りょう学生がくせい交代こうたいでそこにはいります。よるになると、お風呂ふろ学生がくせいでいっぱいになりました。
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1B

 風呂ふろ掃除そうじ早朝そうちょうにおこないます。新入生しんにゅうせい掃除そうじのやりかたがわからないので、りょう先輩せんぱいとふたりでやります。りょう先輩せんぱいといっても、新入生しんにゅうせいのぼくはまだりょうにはいったばかりなので、らないひとばかりでした。ぼくは風呂掃除当番表ふろそうじとうばんひょうました。そこにはやはりらない先輩せんぱい名前なまえいてありました。
「やはり、らない名前なまえだなあ・・・」 ぼくは不安ふあんになりました。しかし、風呂ふろ掃除そうじのときは先輩せんぱいのほうから新入生しんにゅうせいむかえにくことになっているといてすこ安心あんしんしました。
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2

 それなら、部屋へやっていればよく、先輩せんぱいをさがす必要ひつようがありません。何日なんにちかがすぎました。それでもりょう人数にんずうおおいので、その先輩せんぱいがどの先輩せんぱいなのかまだわかりませんでした。まあ、部屋へやっていればいいやとおもいました。明日あすはいよいよ早朝そうちょうらない先輩せんぱいとふたりで風呂ふろ掃除そうじです。寝坊ねぼうしてしかられないようにはやめにておこうとおもいました。ぼくは部屋へや電気でんきしてました。どのくらい時間じかんったのでしょうか。突然とつぜん部屋へやのドアをたたくおとこえます。ぼくはまだねぼけまなこでした。
「まずい、ねぼうしたのかな」
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2B

 ぼくはぼんやりしたあたまでそうおもいました。
「キムラくん、風呂ふろ掃除そうじくよ」 ちいさなこえがドアのむこうからこえます。きっとりょう先輩せんぱいちがいありません。
「すみません、ねぼうして・・・」 ぼくは、そうってとびおきました。まだあたりはくらです。
「おかしいなあ、まだくらじゃないか。こんなにはやくから風呂ふろ掃除そうじってするのかなあ・・・」 ぼくはすこしへんおもいましたが、先輩せんぱいうことは絶対ぜったいです。ぼくはドアをけました。そこにはたこともない先輩せんぱいがいました。
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3

先輩せんぱいおはようございます」
「ああ、いくよ」 なんだかちいさなこえ存在感そんざいかんのない先輩せんぱいでした。
 ちいさく、なんだかひどくふるふくています。まるで戦争中せんそうちゅう兵隊へいたいさんのふくみたいだとおもいました。でも、先輩せんぱいになにかを質問しつもんするのは失礼しつれいにあたるがしてだまっていました。まわりは、まだくらです。りょうはしんとして人気ひとけがありません。みんな寝静ねしずまっているようです。ふるりょう本当ほんとう幽霊屋敷ゆうれいやしきのようで、くらなかあるくのはひどく不気味ぶきみかんじがしました。
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3B

 ときどきしろいものがふわふわっととおりすぎたようながしてびくっとします。先輩せんぱい怖くこわないのだろうかとおもいました。いや、先輩せんぱい本当ほんとうはおばけかもしれない。ふりむくとオオカミのようなかおをしているかもしれない。いろいろな想像そうぞうあたまをかけめぐり、だんだんこわくなってきます。
「じゃあ、やるよ」 先輩せんぱいがブラシをもって、お風呂ふろのなかにはいっていきます、ぼくも、それについてはいっていきました。先輩せんぱいがお風呂ふろせんをぬくと、おがだんだんすくなくなっていきます。ぼくは一生懸命いっしょうけんめいブラシでお風呂ふろみがきました。
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4

「お風呂ふろ幽霊ゆうれいはなしっているかい?」
「いいえ、りません」
日本人にほんじんはお風呂ふろきでね。戦争せんそうでジャングルをかけめぐってたたかっていると、お風呂ふろはいりたいとおもうんだ。まえ一度いちどゆっくりはいってみたいとね」
「そんなもんですか」
「ああ、ここはむかし兵隊へいたいさんたちのりょうとして使つかわれていたから。真夜中まよなかときどき湯船ゆぶね幽霊ゆうれいがつかっていることがあるよ」
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4B

 ぼくはおどろきました。
「え?そうなんですか」
「ああ、でもじゃましちゃいけないよ。わる幽霊ゆうれいじゃあないんだ。お風呂ふろくらいゆっくりつからせてあげればいいよ」 先輩せんぱいはそうってわらいました。そんなことをっているあいだ風呂ふろ掃除そうじわりました。べつにむずかしいことはなく、ただ風呂ふろゆかをブラシでみがいただけでした。まだあたりはくらです。ちょっとはや掃除そうじすぎたのではないかとおもいました。
「ちょっと、あつくなったからそこの裏山うらやまかないか。すずしいよ」 先輩せんぱいがそういました。そとはまだくらです。たしかにかぜいてすずしそうですが、とてもこわかんじがしました。
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5

「いえ、先輩せんぱい。もうつかれたから部屋へやかえってます。」
「そうか、残念ざんねんだ」 先輩せんぱいさびしそうにそういました。ぼくはいっしょにってもいいかなという気持きもちになりました。 「せ・・・」 先輩せんぱいいかけたとき、先輩せんぱいはもうえていなくなっていました。  ぼくは、部屋へやかえりました。そして、またました。しばらくすると、また部屋へやのドアをたたくおとがします。おきるとあたりはあかるくなっていました。
「あれ?いつのまにあかるくなったんだろう?」
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5B

 ぼくはねぼけまなこできました。
「キムラくん、風呂ふろ掃除そうじくよ」 ドアのそとからこえがします。ぼくは不思議ふしぎおもいました。風呂ふろ掃除そうじならさっきくらななかしたばかりです。ぼくはドアをけていました。
先輩せんぱい風呂ふろ掃除そうじならさっきやったじゃないですか」 そうって、おどろきました。さっきとちが先輩せんぱいっています。
今日きょう、いっしょに掃除そうじだよ。くよ」
「あれ?でも」
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6

 ぼくは不思議ふしぎおもいながらついていきました。お風呂ふろにつくと先輩せんぱいがなかにはいっていきます。ぼくもいっしょについていきました。
「あれ?お風呂ふろ掃除そうじがしてある・・・」 先輩せんぱいがそうさけびました。やはり、さっき掃除そうじしたのはゆめじゃなかったんだとおもいました。
「このお風呂ふろにはときどき幽霊ゆうれいるらしいんだ・・・」 先輩せんぱいがそういました。
「ひょっとしてむかし兵隊へいたいさんみたいなふく幽霊ゆうれいですか?」
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6B

「よくっているね」
「ええ、ぼくさっきいっしょに掃除そうじしました」
裏山うらやまこうとかわれなかったかい?」
「ええ、われましたけど・・・」
かなくてよかったね。かえってこない新入生しんにゅうせいときどきいるから・・・」 ぼくはおどろきました。どうやらさっきの先輩せんぱいはお風呂ふろ幽霊ゆうれいだったようです。いっしょについていかなくてよかったとおもいました。
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